「大脱走」

「大脱走」

「ロミオとロミオは永遠に」(恩田陸)を読んで以来ずっと観ようと思っていた作品。でもいっぱい人が死ぬんだろうなと躊躇していました(そんなのばっかですが…)。
テーマ曲を聴くのも楽しみにしていたら、なじみのある軽快な曲で驚いた。なんだか「トムとジェリー」みたい(そういえばトムジェリにも脱走の話があったっけ)。
内容も明るくて、今の時代だったらこんなに陽気な戦争ものって作れないだろうなと思う。いくら明るく楽しくても、実話をもとにしているという冒頭の説明で、早くもずっしりした気分になってしまったけれど。
捕虜収容所を見て、「サラの鍵」に出てくるユダヤ人収容所を思い出してしまい、さらに重たい気分に。しかし、こんな木造建築ではドイツの冬はこたえそうだ。


脱走や脱出をモチーフにした作品って割とあるみたいで、「ショーシャンクの空に」ならこの辺でこの人が死んじゃうなあとか、「キューブ」な展開なら生き延びるのはこの人だろうか、とかロクでもないことを考えながら観てました。
意外なところでは『ヘタリア』が脳裏にめくるめいてしまって、もさもさしたスーツで逃げたらバレるよ!(イタリアの場合だけど)だの、カフェでエールを頼んじゃダメだよ!(ルイスはオーストラリア人だけど)だの脳内が騒がしい。「くたばれイギリス!」のセリフにもによによしてしまう。ほんとに穴掘ってたんだね、イギリス…。


脱走話でも、ユダヤ人が収容所から脱走するとか、東ドイツから西ドイツへトンネルを掘って脱出するというのは分かるけれど、脱走が兵士の義務だとか後方撹乱のためだとかいう理屈は理解不能でした。正義も大義も理想も理解できない。生き延びるだけじゃだめなの?と思ってしまうのは私がヘタレ人間だからだろうな。
映画では、ドイツ空軍と親衛隊の温度差も面白かった。映画を観るとゲシュタポって酷い!と思ってしまうけれど、ルールに則って紳士的に戦争するというのも何か変だと思う。ましてや義務で脱走するとか。ドイツもヘンだけどイギリスもおかしいよ!とイタリアかアメリカに突っ込んで欲しい(『ヘタリア』から離れられない…)。


この映画がこんなに明るいのは、たぶんまだ正義や理想という言葉に説得力があった時代だからなんだろうと思う。例えば「裏切りのサーカス」の苦さや暗さ、「かぞくのくに」のやり場のない気持ちとは比べようもなく。

ところで、映画の紹介ではスティーブ・マックイーンが主役扱いになっているけど、わりとずっと独房にいたような…。それでも、最後まで淡々としているヒルツの存在にはホッとさせられました。