『心理学的にありえない』

心理学的にありえない
「ほんとにもう孤独じゃないのね」
彼女は静かにいった

『心理学的にありえない』/アダム・ファウアー/矢口誠・訳/文藝春秋
前作の『数学的にありえない』はあまり数学と関係なかったように記憶しているのだけど、今回の『心理学的に〜』も心理学は関係ない。
以下、ネタばれ注意。これから本を読む人は見ないでください。
お話は、原題の「EMPATH(Y)」が指すところの共感能力というより、マインド・コントロールのようだ。「心をひねる」という表現がちょっと面白くて、なんとなく『エンド・ゲーム』(恩田陸)を連想した(あれは「裏返し」ちゃうんでしたっけ)。
心をひねる場面の描写は、例えば漫画の『ES』(惣領冬実)の方が具体的で説得力があると思いましたが。「誠意」や「忠誠心」のような抽象的な感情を瞬時に植えつけるのは無理があるんじゃないかな。
でも、共感覚と共感能力を結びつけていて、ある人には色で感じられる感情が他の人には音楽となって聞こえてくるなど、人によって異なるところが面白い。
わりと悲惨なシーンが多い中で、ハッキングのエピソードは楽しかった。『数学的に〜』の読者ならニヤリとする場面もあり。
ラストの展開は『禁じられた楽園』(恩田陸)の規模を拡大したみたいだと思ったけれど、後味はあまり良くなかった。これではジルがあまりも救われないし。ウィンターは感情と音楽の折り合いをつけられるようになるのだろうか、とか。すべてが電磁波だとしてしまえばボーダーを引く意味はないのかもしれないけど。